大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)706号 判決 1963年10月16日
原告 丸野夏子
被告 みやま有限会社
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「昭和三七年一〇月三一日午前一〇時の被告会社の社員総会においてなされた同会社取締役丸野道子を解任する旨の決議が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、
一、被告会社は、土地建物の所有、売買、管理、賃貸及びこれに附帯する事業を目的とし、資本金一、二〇〇、〇〇〇円、持分一口〇金額金一、〇〇〇円の有限会社であるところ、原告は被告会社の五〇口の持分を有する社員である。
二、被告会社の社員宮原静は、有限会社法第三七条商法第二三七条第二項による裁判所の招集許可を得たうえ、昭和三七年一〇月三一日午前一〇時、被告会社の取締役丸野道子を解任するための社員総会を招集した。
三、右社員総会には、六〇〇口の持分を有する宮原静、五〇〇口の持分を有する丸野八郎及び原告が出席したが、被告会社の取締役丸野道子を解任する議案には、宮原静が賛成し、丸野八郎と原告が反対し、その結果、取締役丸野道子を解任する旨の決議がなされた。
四、しかし、丸野道子には有限会社法第三一条の三第一項の事実はなく、その他解任されるべき理由は何もないので、本件決議は法令に違反し無効のものである。
五、更に、宮原静はつぎに述べるとおり自己の不正の目的達成の意図をもつて本件総会招集許可の申請をなし、その許可を受くるや自ら総会を招集し、総会において自己一人の原案賛成により目的どおり丸野道子解任の決議を得たもので、本件決議は権利の濫用として無効のものである。
六、被告会社の社員は、設立以来宮原静、その妻宮原チカ(但し昭和三七年一〇月一四日持分を夫に譲渡し、以後社員でなくなつた)、丸野八郎、その妻原告、その長女丸野道子であり、宮原チカは代表取締役、丸野道子は取締役であつた。
七、被告会社の代表取締役宮原チカは、会社設立後一回も社員総会の招集をせず、被告会社は相当多額の利益を挙げているのに、その利益金を社員に配当せず、夫宮原静と共に勝手に費消していた。
八、また、原告らが少数社員権に基ずき裁判所に選任を求めた検査役の昭和三六年三月二三日付報告書によれば、代表取締役宮原チカは、会社の業務の執行に関し不正な行為をなし且つ定款一一条に違反する事実もある。
九、原告らは、その後、宮原チカに対して社員総会の招集及び利益金の配当を求めたが、同人は、これに応じなかつた。
一〇、そこで、原告、丸野八郎、丸野道子は、裁判所に対して代表取締役宮原チカの解任を目的とする社員総会招集の許可を申請し、昭和三七年一〇月二二日その許可を得た。
一一、右申請がされるや、宮原静は、妻宮原チカが解任されると、被告会社の取締役は、丸野道子一人が残ることになるので、今後会社財産を勝手に処分することができなくなり、更に従来の不正事実をばくろされることになるので、これを防止し、更に不正の利益を得ることを継続しようと企て、裁判所に対して取締役丸野道子の解任を目的とする社員総会招集の許可を申請し、その許可を得て招集された社員総会の決議が、本件社員総会の決議である。
と述べた。
被告訴訟代理人は、主文第一項と同趣旨の判決を求めると述べた。
理由
まず、丸野道子には解任事由がないから本件社員総会の決議が無効である旨の原告の主張について判断する。
有限会社法第三二条、商法第二五七条第一項によれば、有限会社の社員総会は、正当の事由がなくても取締役を解任する旨の決議をすることができるのであるから、仮に原告主張事実が認められても、本件社員総会の決議の内容が法令に違反するとはいえず、従つて、事実認定をするまでもなく、原告の右主張は、理由のないものといわなければならない。
つぎに、原告の権利濫用の主張について判断する。
原告の主張自体によつても、本件総会は官原静の招集許可申請に対する裁判所の許可にもとずいて招集されたものであり、たとえ右許可申請が原告主張のように権利濫用であるとしても、一旦裁判所の許可を得た以上右許可にもとずく本件総会の招集には何等瑕疵はないものと解すべきである。次に又たとえ右総会における決議に際し宮原静の議決権行使が原告主張のような意図にでたものであるとしても、株式会社や有限会社のような所謂物的会社では、資金を多く出し株式又は持分を多く持つていればそれで経営を支配できるということが基本原理であつて、取締役の選任や解任の決議については株主や社員の主観的意図の如何によつて議決権の行使が権利濫用となることはないと解すべく、このことは前記規定が「正当の事由なくして任期満了前に解任された取締役は会社に対し解任によつて生じた損害の賠償を請求することができる」旨定め、正当事由の有無を補償問題の基準にすぎないものとしていることからもうかがうことができる。そうだとすると事実認定をするまでもなく、原告の右主張も理由のないものといわなければならない。
そうすると、原告の本訴請求は理由がないので、棄却すべきものとし、訴訟費用については、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山田鷹夫 道下徹 谷口茂高)